さとう、舞台中央で正面を向き胡坐をかいている。目をつぶり思案顔。
よしだ、舞台上手から登場。
よしだ「うぃーっす、ごめん遅れて、ちょっとバイパス混んでてさ、ん、何やってんの?」
さとう「あぁ、今、…考えてる」
よしだ「考えてるって、何を?」
さとう「え?いや、何をっていうか、ただ考えてる。」
よしだ「だから何をって」
さとう「いや、だから、何をってことはないんだよ。ただ、考えてる」
よしだ「はぁ?考えてるってことは"何かを"考えてるんだろ?教えろよ。」
さとう「…」
よしだ「あ、わかった、なんかエロいこと考えてたんだろ?だから答えられなんだろ、おい、え?そうなんだろ?親友の俺にも言えないレベルのエロいことってなんだ?答えてみろ?」
さとう「違うよ、うるさいなぁ。ちょっと黙ってろよ。」
よしだ「黙ってろって?…"何を"黙ってればいいんだ?」
さとう「…はぁ?」(よしだの方を向きながら、顔をしかめて)
よしだ「だから、黙ってろって言うけど、"何を"黙ってればいいんだ?」
さとう「…いや、"黙る"に"何を"も何もないだろ、ただ、黙ってろって言ってるの。」
よしだ「ただ黙ってろってそんな横暴な。"何を"考えてるかも教えないんだから、"何を"黙ったらいいのかくらい教えてくれよ。」
さとう「…じゃあ、"お前を"黙ってろ。」
よしだ「よしわかった。"俺を"黙ればいいんだな?」
よしだ「……」(変な顔で)
さとう「今まで入力したことのない指令文を実行したせいで、顔面にバグが発生してるぞ」
よしだ「っつーかこんなこと話してる場合じゃないだろ?今日は来週の熱海合宿のスケジュール詰めに来たんだから。行きたいとこ、見当ついてるか?」
さとう「あぁ、ごめん。俺、行けなくなった。」
よしだ「はぁ?!なんでだよ、三ヶ月前から一緒に行こうって約束してたじゃねぇかよ。」
さとう「俺、彼女できた。」
よしだ「はぁ?!彼女?!お前そんなこと一言も言わなかったじゃねぇか」
さとう「そりゃ、こんなこと言ったらお前が怒るのわかってたからさ。」
よしだ「当たり前だろ!俺たち"彼女いない歴=年齢連合"、略してカノイネン連の会員として、彼女ができたなんてのは裏切りだよ!」
さとう「だから言い出せなかったんだよ!カノイネン連の面々に合わせる顔が無くて」
よしだ「面々っていうか、メンバーはお前と俺しかいないから、俺だけだけどな。面々っていうか、面だけどな。」(自分の顔を指しながら)
さとう「…うん。」
よしだ「…うん。んなんだよー。それじゃ当然合宿も中止だよなー。もっと早く言ってくれよー。」
さとう「本当、ごめん。」
よしだ「えっ!ていうか、相手、だれ?」
さとう「バイト先に最近入ってきた女の子。」
よしだ「バイト先って、例の害虫駆除のバイト?」
さとう「そう、害虫駆除」
よしだ「バイト先は男ばっかだって言ってなかったっけ」
さとう「つい半年くらいまえに入ってきたんだ。それから一緒に蜂の巣とか取ってる内に段々仲良くなって、先月、告白された。」
よしだ「数多の害虫の命と引き換えに、お前は一人の女を手に入れたってわけか。」
さとう「そんな言い方するなよ」
よしだ「巨大蜂の巣に挑むドキドキ感が、吊り橋効果の役割を果たしたってわけか。」
さとう「それはわかんないけど」
よしだ「害虫駆除が早くチューしようになったってわけか。」
さとう「全然上手くないよ、それ。」
よしだ「うるせー!うるせー!なんだよ同じカノイネン連の仲間だと思ってたのに。お前は彼女いない歴=21歳7か月で記録打ち止めじゃねぇか。俺は現在進行形で記録更新中だよ!馬鹿にしてんだろ!」
さとう「そんなことないよ」
よしだ「あーわかった!さっきもお前、彼女のこと考えてたんだろ!だから何を考えてるか答えられなかったんだろ!」
さとう「違うよ。あれはただ、本当に、考えてただけなんだ。」
よしだ「もういいよ!帰る!」
さとう「おい、待てよ!」
よしだ「…あ、最後に一個だけ質問。お前、彼女ともう、"した"のか?」
さとう「"した"って、"何を"?」
舞台暗転