徒然なるままに~人生三角折主義~

あくびしてる猫の口に指突っ込むときくらいの軽い気持ちで見てください。

コンビニのアイスコーナー ~「迷い」と「決断」と「アイス」と「私」と~

 コンビニのアイスコーナーは、何よりも私を迷わせる。

 第一に、そもそもコンビニでアイスを買うかどうか、迷う。一般的に言って、スーパーやドラッグストアよりコンビニの品物は値段が高い。それは大抵のものに当てはまるのだろうけれど、アイスが最も顕著であろう。スーパーで78円で売ってるものが140円も払わなければ手に入らない。ちょっと足を延ばせば78円で買えるというのに、その倍近い値段で購入することの、覚悟。それが私にはあるのか。

 その覚悟ができたとして次にくるのは、何を買うか、という迷い。まずはアイスの中でジャンルを決める。氷菓系、クリーム系、カップ系、棒系。まだそれほどの暑さではないと、氷菓系を排除。家に帰ってから食べたいから、と溶けると食べにくい棒系を排除。クリーム系×カップ系に狙いを絞る。

 店内の放送では若手芸人の賑やかなトークが流れる。店員同士の雑談が耳に障る。五十そこそこの男が脂ぎった頭皮を露わにしたまま、エロ本のページをめくる。神経が研ぎ澄まされる。

 MOW、爽、スーパーカップ、という御三家にプライベートブランド商品を含め6~7種類が候補に残った。まずは消去法。アイス界の中谷美紀、高根の花スーパーカップsweet'sがまず消える。更に微細氷を特徴とする爽は猛暑日用にと、今日のところは保留。チョコミントは苦手、プライベートブランドの内一つが消えた。

 そんなこんなで、残ったのはMOWのエチオピアモカコーヒー味、スーパーカップバニラ味の二つ。森永VS明治の因縁対決である。

 この時点ですでに入店から30分が経過している。いつの間にか店内には私と店員以外の人間がいなくなっていた。妙な静けさの中で、私はつばを飲み込む。

 まず考えるのは、今の自分の気分が、未だ食したことのない「エチオピアモカコーヒー味」にチャレンジする「冒険」なのか、お馴染みの「バニラ味」をとる「保守」なのかということである。しかし、ここにおいて、私はどちらにも傾きかねる。未知の味に対する期待と、いつも通りの安心感、どちらも同じだけ欲している。もしかしたらこの感覚は不倫に近いのかもしれない。山路徹はこんな気持ちだったのか。

 となると、次に考えなければならないのは、容量。スーパーカップはその名を名乗るだけあって、200mlという大容量。それに比べMOWは140ml、値段が140円でバランスしているだけにこの差は大きい。

 しかし一方で輝くのはMOWにおける「種類別 アイスミルク」の文字。それに対してスーパーカップは「ラクトアイス」。今回、第三者的立ち位置を取るGlicoのホームページ内の「なぜ?なに?コーナー」を参照すると、乳固形分が3.0%以上のものがラクトアイス、10.0%以上のものがアイスミルクという事だ。(さらに15.0%以上になると「アイスクリーム」と区分される。)乳固形分の含有比率の大きさはそのままクリーミーさに影響する。その意味で、よりクリーミーといえるアイスミルクのMOWに質という視点での軍配をあげたい。

 「質」を取るか「量」を取るか、という単純な問いではない。双方のバランスを考えたうえで、どちらに決断するのか。純然たる「迷い」がここにはある。

 時を刻む秒針の音が鼓膜を震わす。手汗がじんわりと浮いてくる。「総理、そろそろご決断を」と心秘書が耳に囁く。「うむ。」心で返し、僕はゆっくりと、手を伸ばす。

 家に帰り、レジ袋からアイスを取り出す。紙製のフタをめきりと開け、プラスチックの内フタをぴりぴりと剥す。露わになったクリーム色の雪面、そう、スーパーカップバニラ味である。木の匙で表面をすっとすくい、口の中へ。ほのかに溶けたその甘味にエクスタシーに似たものを感じながら、二口目を運ぶ。美味、である。

 半分ほど食べたところで蓋をし、再びレジ袋に手を入れる。取り出したのはMOWエチオピアコーヒー味。点線に沿ってぱりぱりと紙の蓋を取り、プラスチックを剥すと、うす茶色の土壌が見える。コーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。一口食べるとクリーミーな舌触りに、口いっぱいにコーヒーの風味が広がる。エチオピアの風景が眼前に広がる。

 こちらも半分ほど残したところで蓋をした。残りは明日のお楽しみである。結局どちらにも決められなかった私は、両方購入し、二日に渡って消費することとしたのだ。そうすれば一日分の金額は変わらず、両方の味を楽しめる。

 何かを迷ったとき、視野を広げてみてほしい。選択肢は思ったより多い。一見、二択のようなクエッションに第三の答えを探してみるのだ。その第三の答えはきっとあなたの決断を支えるだろう。