徒然なるままに~人生三角折主義~

あくびしてる猫の口に指突っ込むときくらいの軽い気持ちで見てください。

昼下がりの人妻淫記譚~のぞく男、蠢く女、揺れるひまわり、ささやかな幸せ(1)~

薩美恭子は寝台の上に居た。

時刻は午後2時30分、普段ならリビングで横になりワイドショーを見ている時間だ。

しかし、今日は違った。悟羅木尚美が訪ねてくる予定になっているのだ。

 

悟羅木とは数か月前に偶然出会った。恭子が道端で転んで大腿を粉砕骨折したとき、偶然そばを通りかかった悟羅木は親切にも恭子を病院に送ってくれたのだ。幸い、大腿の粉砕骨折はたいしたことはなく、それよりも悟羅木のような男と出会えたことに恭子の心は弾んだ。

恭子には今年で定年になる夫がいる。二回りも年の離れた男との恋愛にはじめこそ魅力を感じていたが今となってはただのおいぼれた爺さん、年の差婚などと浮かれていた結婚当時の自分を殴ってやりたいほどだ。

毎日炊事選択をこなし、泥酔で帰ってきた夫を迎え、休日には囲碁の相手をする。そんな枯れた夫婦生活を送っていた恭子にとって悟羅木の登場は刺激的であった。

病院の一件の礼に彼の家を訪問し、その日のうちに体を重ねた。働き盛りの悟羅木の体が長年眠っていた恭子の女としての快感を蘇らせた。恭子の体は悟羅木の体を求めるようになった。

それ以来、二人は月に何度かの頻度で逢瀬を重ねている。

 

そして今日、悟羅木とそれ目的で会うのはこれで17回目だ。夫は朝早くに会社にでかけた。悟羅木に会うことを思うと夫に向ける声さえ自然と高くなった。そんなこともつゆ知らず夫は「なんだい、今日は機嫌がいいな」などと笑っていた。のんきなものである。

それにしても彼がくるのが遅い。時計の長い針はもう9と10の間を指している。普段なら約束の10分前には家の呼び鈴をならす彼がどうしたのだろうか。

そんなことを考えているうちに呼び鈴が鳴った。鐘を突くような荘厳な音が家中に響き渡る。呼び鈴をこの音にしたのはもちろん夫だ。通常の倍の値段を払ってまでこの荘厳な音を響かせたがる夫の気持ちが恭子には理解できなかった。

恭子は寝台を降り、玄関へ向かった。

………

……

そんな恭子の動きを見つめる男がいた。その男の名は薩美正四郎、そう薩美恭子の夫である。我妻の不穏な動きを察知した正四郎は朝いつも通り出勤したように見せかけたうえで隙をついて彼女の部屋のクローゼットに隠れたのだ。

それほど深く考えて行動した訳ではないがなにやらうまくいったらしい。男が玄関を上がった音を鋭敏に感じた正四郎はそう思った。暗闇のクローゼットの中で正四郎の禿頭がキラリと光ったような気がした。

 

To be continued…