爺さんのくれた靴下
今週のお題「お気に入りの一着」
7月9日。祖父が死んだ。ヘビースモーカーだった祖父は肺に病を患い、長年の間病床に臥していた。祖父は死ぬ前日までハイライトを吸い続けた。
「どうせ死ぬんだったらよ、あと5年だろうが明日死のうがたいして変わんねぇだろ?だったら俺は禁煙なんてしねぇよ。」
そう笑いながら煙草に火をつける祖父の姿が私の見た彼の最後だった。本当にその翌日に死んでしまうとは、一番驚いているのは祖父本人かもしれない。享年97歳、大往生であった。
葬式やら通夜やらが一段落したある日の午前、私は母とともに遺品を整理していた。生前祖父が愛用していた懐中時計や誕生日に私がプレゼントした浮世絵のレプリカなどが物置の奥から出てきて、思い出話に花が咲いた。
「お父さん。はっきりと言わなかったけど家族のことが大好きだったのねぇ。」
さっきまで笑っていた母の目にはうっすらと涙がにじんでいた。そんな母から私はなんとなく目をそらして、遺品の整理を続けようとした。
すると物置のすみにどことなく見覚えのある一足の靴下があるのを見つけた。茶箱の脇に追いやられたその靴下をひっぱりだしてよく見てみるとある光景がフラシュバックしてきた。
《つづく》