徒然なるままに~人生三角折主義~

あくびしてる猫の口に指突っ込むときくらいの軽い気持ちで見てください。

真夜中のほくろ -The Moles in the Dead of the Night-

  深夜2時半。主人がすっかりノンレム睡眠に陥ったのを見計らってほくろ達は動き出す。

 初めは顔にあるほくろから。目元にある控えめなほくろがピクリと動く。それに呼応するように顎のほくろもピクリ。伸びた髪の陰に二つならんだほくろもピクリ、ピクリ。

 それ以後、ドミノ倒しのようにほくろ達が目を覚ます。首、肩、胸、腕、おなか、腰元、下腹部、もも、ひざ、ふくらはぎ、足首、かかと、つま先。ピクリピクリピクリピクリピクリピクリ。体中のほくろが臨戦態勢に入り、準備は万端だ。

 どのほくろが指示を出すわけでもなく、本能的に、全てのほくろがおでこに集合した。集まったほくろの数は100を超え、500円玉より一回り大きいサイズの黒丸が額に出現した。傍から見れば深い穴が空いているようにさえ見える。

 集合の後は、離散だ。これもまた何の合図もなしに、すべてのほくろが蜘蛛の子を散らすように全身にさっと広がる。100以上のほくろが凄まじい速さで全身を這いずり回る。個々を追おうとしても残像が横切るだけである。これが20分程続く。

 全身を巡り終えたほくろは初めの位置に戻らなければならない。だんだんとスピードが緩み、ゆっくりと元の場所に向かっていく。中には自分がどこから来たのか忘れてしまったほくろもいて、それらしい位置にすっと留まる。

 すべてのほくろが動きを止めれば、今晩のノルマは終了だ。ほくろ達は静かに眠りにつく。

 毎深夜、ほくろが動いていることを人間は知らない。この世界にはまだまだ未知のことがたくさんあるのだ。だから世界は面白い。

お題「今日の出来事」