徹夜明けの咽喉の痛みを食い破りながら、男はドアを開けた。真夏のうでるような暑さが全身を包む。男の顔が歪んだ。
古いアパートの階段を降りると、一匹のネコが座っていた。薄汚れているが、体はずんぐりと太っている。通りすがりに餌を貰い貰い生きているのだろう。男が近づくとネコは逃げた。思いのほか軽やかな身のこなしであった。
男が商工会議所のデスクに着いたのは9:30のことであった。今日は会議が入っている。
「お、林君、今日は早いじゃない。」
汗に濡れた頭皮を光らせながら、山田が声をかけてきた。曖昧な返事をすると、彼はつづけた。
「昨日さ、僕、凄いもの見ちゃったんだ。」
「え?凄いものって?」
「UFOだよ、UFO。」
爛々とした目で語る山田は真剣な様子であった。五十にもなる男が真剣にUFOの目撃談を語る様は滑稽でもあった。
「UFOですか?」
「そうだよ、UFO。昨日、家に帰る途中でさ、ふと空を見上げたら見つけちゃったのよ。」
「どんな形だったんですか?」
「えっとね、なんかこう四角かったな。箱型、みたいな感じ。」
「箱型のUFOなんて聞いたことないですよ。」
「でも見ちゃったんだからしょうがないじゃない。箱型のUFOがプカプカ空を飛んでたんだよ。ね、凄いだろう?」
そんな話をしている内に会議の時間となった。
つづく。