徒然なるままに~人生三角折主義~

あくびしてる猫の口に指突っ込むときくらいの軽い気持ちで見てください。

権兵衛と雪

今週のお題「雪」

 ある街に雪が降った。町は一晩降り続け、積りに積もった。男というのは下らない生き物で、頭の中には快楽を求めることしかない。七丁目のぼろアパート、203号室に住む権兵衛ははたと思いついた。そうだ、雪を固めてダッチワイフを作ろう。権兵衛は善は急げとばかりに外へ飛び出した。

 凍える真冬の空の下で、権兵衛の情熱はカッと燃えていた。時刻は深夜2時半、さすがに真夜中、人気はない。夜が明けるまでにダッチワイフを作り、一線を越えなければならない。権兵衛はそこら中の雪をかき集め、雪像の政策に取り掛かった。しかし、どうにも上手くいかない。それもそのはずで権兵衛は生身の女体を見たことが無かった。

 しばらく思案したのち、権兵衛は思いついた。デリバリーを呼んで体を見せてもらおう。言うまでもなく権兵衛は年中貧乏暮らしで余る金などない生活であったが、雪のダッチワイフのためには致し方あるまい。故郷から昨日届いたばかりの仕送りの封を切り、権兵衛は電話をかけた。

 それから30分弱も経ったころに嬢が訪れた。権兵衛は外で裸体になることを要求したが、そのようなオプションは無いと断られた。仕方がないので部屋まで連れて行き、嬢を裸にした。身ぐるみを剥された嬢はまずは風呂に、などと言いかけたが権兵衛がじっと見るばかりで行為に及ぼうとしないのを不可思議に思いキョトンとしていた。権兵衛は暫し観察を続けたあと、だっと階段を駆け下り外へ飛び出した。この時時刻はすでに3時半。もう一時間もすれば朝一番の仕事が始まる。その前になんとしてもダッチワイフを完成させなければ。

 権兵衛のそれからの動きは早かった。今眼に焼き付けた女体を雪でせっせと作り上げる。嬢は2階の窓からそれを見つめていたが、そのうち呆れて帰ってしまった。しかし権兵衛はそんなことにも気が付かなかった。

 4時を少し回ったころ、ようやく完成した。権兵衛はそれに雪子という名前を与えた。権兵衛は服を脱いだ。地面に横たわり、M字に脚を広げた彼女と体を重ねた。権兵衛が動くたびに雪子の体は崩れていった。しかし権兵衛は気にも留めなかった。ただ無心に動き続けた。

 翌朝、新聞配達の青年が、解けかけた雪の上に全裸でうつぶせた男の死体を発見した。凍え切ったその体は無残なものであったが、その表情には穏やかな笑みが浮かんでいたという。

 今日も雪が降る。雪は街を白く染める。白い白い街の中で今日も愛が生まれるのであろう。