いつでも海苔を、心の中に。いつか忘れかけたときに海苔は貴方に語り掛けるのでしょう。
「どんな形でもよかったんです。ただ、美味しく食べてさえもらえたら。」
22歳の海苔はそう語った。彼海苔はある細菌に侵され、余命を宣告されていた。
「仲間たちはみんな、朝食のおかずになったり、ラーメンの具になったりしているんです。どうして……。どうして僕だけがこんな目に合わなければならないのでしょうか。神様がいるとしたら、あまりにも残酷な仕打ちだ……。」
彼海苔はそう言って涙を流した。その涙は海水よりも塩辛かった。
「僕だって……僕だってパリパリになってみたかった!醤油や砂糖やみりんで甘辛く煮つけられてみたかった!塩とごま油で味付けされて、国産にもかかわらずグローバルな異名を授けられてみたかった!……それもすべて叶わないというのか……。あぁ僕が幼かったあの頃は幸せだったなぁ……。」
~海藻シーン~
0歳 海苔、誕生。有明海に生まれる。
6歳 ぐんぐん成長する。ノリノリの成長期。
15歳 思春期突入。酒井法子のファンになった。
20歳 病発覚。脳裏に混乱が渦巻いた。
~海藻シーン おわり~
その時、海苔の容態が一変した。緑色の体が真っ青になり、ブルブルと震えだした。いよいよ最後の時であった。
「おい海苔!」
死の瀬戸際に瀕した海苔のもとにある海苔が現れた。
「と、父さん!」
そう、その正体は海苔の父、海苔であったのだ。
「父さん、来てくれたんだね。だけど、もう僕はダメみたいだ。」
「それを潮風の便りで聞いて駆け付けたんだ。お前が死ぬ前に言っておきたいことがあったんだ。」
「……なんだい?」
海苔は最後の力を振り絞って聞いた。
「実はな、お前は……海苔じゃなくてワカメなんだ!」
「なんだって!……ワケワカメ……。」
海苔、いやワカメは死んだ。最後まで自分の生に精一杯向き合ったワカメに(海の)幸あれ!